面接でけんかする親も お受験、合否の分かれ道

 

 

 私立や国立の小学校に入るためのお受験(小学校受験)をしたママ2人へのインタビュー。前編では小学校受験をしようと思ったきっかけや、気になる塾の月謝の話などを聞きました。後編ではどのように勉強を進めたかや、面談など受験当日の話、夫婦の協力体制などについて紹介します。
 塾で怒鳴る母、面接でけんか別れする親、スーツは紺じゃなきゃ落ちるとアドバイスする友人…。数々の修羅場を見て、迷いながらもお受験の道を進んだママならではのリアルな話をどうぞ。



【参加者プロフィル】
中井さん(仮名)…女の子ママ。有名女子校に長女が合格。夫婦で公務員。日頃残業は少ないが、受験期は特に夫は残業をやめて協力してくれた。
柚木さん(仮名)…男の子ママ。私立男子校に長男が合格。その下に長女もおり、今後小学校受験予定。夫婦で企業の管理職の立場にあり、非常に多忙。



■好きな1つを徹底的に追求する男の子、ペーパー対策重視の女の子

 一口にお受験といっても、受ける学校などによって試験内容は大きく変わってくる。合う学校、入れたい学校は教育方針や子どもの性格などで選択していくだろうが、その勉強法も性格や性別で異なってくるらしい。では、2人はどのようにアプローチしたのだろうか。

中井さん わが家は女の子なので、女子校に多いペーパーテスト対策を毎日のようにこなしていました。

柚木さん そう、男女でお受験って全然違いますよね。男の子は、1点集中型。何か特異なことや興味があるものを見つけたら、そこをポイントに何でも広げていくといいっていいます。例えばカブトムシが好きなら、季節のイベントもお絵描きも何でもカブトムシから興味を広げてあげる。

中井さん それに四季のイベントとか自然との関わりが大事だから、畑に連れてって田植えや稲刈りをしたり、色々一緒に行きました。まだ6歳だから、植物や生物も紙で覚えるより体験でなるべく覚えたほうがいいですね。

柚木さん 休みごとに川に行ったり、キャンプしたり。工作は休み返上してでも付き合ってやりました。遊びをとにかく徹底的に楽しませることが重要ですよね。でも、お受験で自分のほうが学ぶことが多かったです。お月見にお団子作るって、仕事で忙しいとなかなかやらないじゃないですか? 受験で向き合ってみて、子どもってすごいなと思う部分を見つけられるようになったんです。それに、親が子どもの興味あることを少し先に用意してあげようという意識ができました。

中井さん それと、うちはカトリック校を受けるためにキリスト教とは何かを日々の中で意識して教えていました。キリスト教の家庭ではないのですが、知っておくことはこれからの世界の中でも大事です。例えば、世界には学校に通えなかったり、食べ物が足りなかったりする子どもがいるという話をして、そのために自分ができることは何だろうと話し合って行動に移すんです。食べ物を好き嫌いせず食べ残さない、ごみ袋を持ち歩く……そういうことを強制するのではなく、日常で身に付けさせました。おかげで、今ではお小遣いの一部を国境なき医師団に寄付したい、と自分から言うまでになりました。

 

 

■泣き出す子ども、怒り狂う母、お教室で見た驚きの光景

 受験に向けて通い始めたお教室。どんな内容だったのだろうか。

中井さん うちは年少の秋からお教室に入っていたのですが、2年間準備があった分、ゆっくり学校見学をしたり、わが家の受験方針を決めたりできたのでよかったです。毎週土曜日に朝9時から夕方6時まで通っていましたが、いろんなプログラムがあって楽しそうでした。

柚木さん うちは土曜日2時間だけですが、1年間しか通わなかった分集中して取り組めた気がします。やっぱり先生方はプロなので、分からないことがあったらすぐ聞くようにしました。夫も何か分からないと、すぐにお教室に電話して聞いてましたしね。ビデオやメモを取りながら見るときもありましたよ。

中井さん 後ろで授業を見学していたのですが、いろんなお母さんがいましたよね。中には、子どもが答えを間違えると、子どものところまで行って「なんでできないの!」ってぶったり! もちろん先生は止めますけど。でも、きっと代々家族は慶應だから合格させなきゃいけないとか、そういう重いものを抱えていたであろうお母さん達は、見ていて気の毒になっちゃいました。

柚木さん 落ちても当然、くらいの気持ちで臨んでたので気楽でした。それに先生からも子どもを褒めるように言われますし、どうやって声をかければいいか授業を見学していると分かってきます。毎日子どものいいところを見てちゃんと褒めてあげられるようになったのは、私にとっても学びでした。受験で向き合ってみて、子どものすごいところをたくさん見つけてあげられるようになりました。

 

 

■常識破りの黒スーツ、先のとがった靴……それでも受かった合格秘話

 それぞれの受験準備の期間を終え、いよいよ当日。両親の面接もあるのが、お受験ならではだ。基本は、母は紺のスーツに紺のバッグと靴、父はスーツ姿と言われるが、2人は慣習に従ったのだろうか?

中井さん 実は、私は黒のスーツで行ったんです。娘を信じていたからこそ、黒でもいいと思ったんです。常識的な格好であればいいですし、受験は娘を見るんだからと。「そんなんじゃ受からないわよ」ってママ友には言われましたが、わざわざスーツを買うんだったら今後も使えるものがいいですよね。紺はあまり使わないけど、黒なら冠婚葬祭でも役に立ちますから。

柚木さん そう、うちも夫が細身のスーツに先のとがった靴で、すごく目立つような格好で不安だったのですが、子どもが自信を持って臨めていた学校は受かりました。学校はちゃんと子どもの本質を見てくれてるんだと思いました。紺バッグとか意外と学校は気にしてないんですよ。

中井さん そうそう、そういう外観的なことよりも、家族の芯がきちんと通っている家は受かりやすいですよね。そのときだけ非日常でもダメ。前日の運動会も休ませなかったですよ。最終的に受けた3校はすべて受かりました。

柚木さん お受験って、結局は日常生活の延長なんですよね。そのときだけ繕ったってダメなんですよ。ちゃんと意思疎通ができてない夫婦は、面接の部屋から出た瞬間に反対方向に別れていったり、「お前がああ言うのが悪い」「いや、あなたこそ」と責め合っているのも見ました。それに比べれば、うちはちょっと派手な格好していても夫の言うことは筋が通っていましたし、夫婦で教育方針も合っていました。

 

 

■入学してみて、本当によかった私立小学校のココ

 そして通い始めた私立小学校は、実際にどんな日々なのだろうか? お受験に力をかけただけの満足を得ているのだろうか?

中井さん 最初の1学期目は、お受験幼稚園のようなところから来た子達と保育園出身の子でだいぶ違いがあり、リボンの結び方が違うだけで責められて帰ってくるようなこともありました。でも、良い子の殻も徐々にみんな剥がれ、時間が経つとだいぶ個性が見えてきましたね。

柚木さん 入ってみたら、働いているママもけっこう多いです。でも、働いていないママ達が教育や学校にとても熱心に関わっていて、働いているママ達を熱心に助けてくれます。働いていて責められることもなく、持ち物やイベントに必要なこともこまめに連絡くれるので、マイペースなうちの子が忘れ物もなくて済んでいるんですよ。

中井さん 私立は学校方針がはっきりしていて、それを理解して選んで入学しているので、親もモンスターペアレンツというのが出にくいんだと思います。先生も愛校心が強く、基本的に学校の方針に従って進めてくれるので、何かもめ事が起きたときにも「うちはこうやって対応します。任せてください」と自信を持ってどっしりしていますよね。

柚木さん そうそう、安心して任せられるので不安もないし、公立よりも手がかからないと思いますね。親も一緒に育ててもらっている感覚です。感謝して通わせてもらっています。

 

 

 

■子どもにレールを敷いてしまった。新たな挑戦を設定するには…

 今通わせている学校に全幅の信頼を置いている2人。今後についてはどう考えているのだろうか。

柚木さん 大学まである学校なので、もし受験するとしても高校か大学で他に行きたくなったときくらいですよね。ある意味、レールに敷いてあげてしまった分、子どもの可能性を狭めたのではないかと悩むときはあります。ですから受験がない分、留学するなど何か挑戦する機会をつくりたいと思っています。

中井さん 小6までにやりたい仕事を自分で決めさせようと思っています。そのために社会を見たり体験したりする機会を多くつくっていくつもりです。やりたい仕事を決めたら、その仕事に就くためにどうすべきか逆算して考えさせ、何をしていくべきか見つけていく力をつけさせたいですね。

柚木さん 今、私は学歴があまり関係ない実力主義の業界で働いています。だからこそ、大人になって人としてどう生きていくかが重要。矛盾しているように見えますが、生きていく力を付けるには私立はいいと思っていますし、今後も子どもに考えさせる機会を多く与えていきたいですね。

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 ただ学歴が必要だからではなく、人間力の高い人に育っていってほしいという願いから私立を選んだ2人。お受験があったからこそ、子どもの個性、そして将来をきちんと考えて、親として真剣に関わってあげる機会になってよかったと声をそろえる。受験を通して夫婦の結束も強まり、子どもの興味の引き出し方なども学べたそう。お受験で得られるものは、合格だけではないのかもしれない。

(取材・文/岩辺みどり)

 

 

日経DUALから引用  2016.1.5