早稲田初等部と慶應幼稚舎

 

“就実”の早稲田、“自尊”の慶應 生え抜き育つ小学校

 

早慶が私大の両雄なら、“スーパー内進生”が育つ小学校も間違いなくお受験界の双璧をなす。正確には早稲田実業学校初等部(東京都国分寺市)、慶應義塾幼稚舎(東京都渋谷区)で(以下早稲田・慶應)、早稲田は大学系属校。ここ10年の志願倍率を見てみると、両校とも2006年度をピークに落ち込んでいるものの、今年度は早稲田7.7倍、慶應10.4倍と、依然高い数値を誇っている。

 樋口聡子さん(仮名)の長男は早稲田に、長女は慶應に合格した。保護者から見た両校の違いを、次のように話す。

「長男は新設間もない頃に入学したので、今は変わっているかもしれませんが、学力は早稲田のほうがつけてくれたと思います。慶應はほったらかしで宿題もなし。娘の同級生で、中学進学後勉強についていけず、赤点を取って留年したり、退学したりする生徒もいました」

 行事は慶應のほうが多く、児童の自主性に任せるなど、こなれていた。また早稲田は校則が厳しかったが、慶應は自由で、子どもものびのびと過ごしていた印象だという。

●勉強より教養

 幼稚園・小学校受験の幼児教室を主宰し『慶應幼稚舎と慶應横浜初等部』(朝日新聞出版)の著書もある石井至氏は、「そもそも大学付属小学校に、学力を期待するのは間違い」と言う。

「慶應は説明会で『勉強は家庭の責任』とさえ明言しています」

 受験勉強が必要ない付属にとって、過度な勉強よりは教養を深める教育が尊重される。慶應は意外にも、体育会系だ。

「福沢諭吉の『まず獣身を成して、のちに人心を養う』を実践し、特に低学年のうちは体を鍛えることに熱心です。東京・築地にある慶應義塾発祥の地から横浜まで歩く36キロウォークや、6年生の遠泳合宿など、スポーツ行事も盛んです」(石井氏)

 早稲田は02年に開校した比較的新しい学校。校是に「去華就実」を掲げている。

「本校は大学の理念と共鳴しており、上辺だけではない実のある教育をめざしています」(早稲田実業学校・藁谷友紀学校長)

 子どもの自立を促すため、保護者の送り迎えは禁止。授業では観察、実験を重視。武蔵野の地の利を生かした自然観察など、フィールドワークが充実している。授業は1時間単位で区切らず2時間を90分とし、内容によって時間を調整している。

 在学生の母親は言う。

 

「校是の通り華美はダメという方針で、持ち物やスカート丈などもうるさいですね。自発的な授業が多く、プレゼン力が身についたと思います。ただ勉強は自主性に任せて、あまり面倒はみてくれない。中等部から優秀な子が入ってくるので、大学まで進学できるか心配です」

 勉強で後れを取らないように、塾に通っているという。学校でも学力向上のため5、6年生を対象に、教育に長けた専科教員を採用し、初等部と中等部の連携授業を強化している。

●全くぶれない慶應

 ブランド力は歴史の長い慶應が勝る。明治7年創立と、142年の歴史。志願書には、志望動機の他に『福翁自伝』を読んだ感想を書かなければならない。小学校受験総合研究所代表取締役の、高橋秀幸氏は言う。

「大学のOB・OG会でも、慶應の三田会は特に結束が固い。付属小学校は、その中枢となる人材の育成を担っています」

 入試はペーパー試験がなく、模倣体操や行動観察と絵画・制作のみ。クラスはK・E・I・O組の4クラスで、6年間クラス替えがなく担任も代わらない。

「小学校受験で保護者の面接のない学校はめずらしい。教育方針といい、入試方法といい、慶應は全くぶれないですね」(高橋氏)

 2013年に開校した慶應義塾横浜初等部は、初年度から1297人と定員の12倍にあたる志願者を集めた。

「説明会で『幼稚舎とは違う』と断言しているように、ブランドよりも中身で勝負するという気概を感じます。言語技術教育など、時代に即した教育を実践しています」(石井氏)

 新しい学校だけに設備も整っており、保護者の満足度も高い。ただし幼稚舎は普通部、中等部、湘南藤沢中等部から進学先を選択できるが、横浜は湘南藤沢中高と、進路が限られている。受験を考えているならブランドだけでなく、教育の中身、大学まで見据えて選ぶことが大切だ。(ライター・柿崎明子)

※AERA 2016年10月17日増大号