「別の学校行けば」ノートルダム清心で担任が“いじめ”?

 

ベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』の著者として知られる渡辺和子・ノートルダム清心学園理事長。そのお膝元の小学校で、担任が男児をいじめていた疑いが浮上した。母親が胸中を語る。

■通学拒否された母子が提訴へ

 小学1年生の教室で、談笑する児童らと離れ、奥の隅っこに置かれた席に独りぼっちで座る男児の姿が映る写真がある。誰の目にも異様に映る光景だ。

「昨年6月に私が教室を覗いたとき、あまりにひどいとショックを受け、思わずケータイで写したのです」

 隔離された男児(7)の母親(38)がそう語る。男児は担任の女性教師から「いじめ」を受けたといい、母親は「あの学校に入学させてこの子の人生を狂わせてしまった」と唇をかむ。

「あの学校」とは、岡山市にあるノートルダム清心女子大学付属小学校。運営する学校法人・ノートルダム清心学園の渡辺和子理事長は、200万部超というベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)の著者としてよく知られている。

 母子は、この「名門」の学校法人、校長、担任を相手取り、総額2420万円の損害賠償を求める訴訟を起こす方針だ。いったい何が起きているのか──。

 男児は、香川県丸亀市在住。同小学校には昨年4月に入学した。瀬戸内海を渡っての遠距離通学だった。

 母親が男児の異変に気づいたのは、入学2カ月後の6月ごろ。自宅で、男児が「お父さんってどこにいるの?」と言いだした。母親は夫の家庭内暴力(DV)が原因で離婚し、男児は父親の顔を知らない。なぜそんなことを聞くのかと息子に問うと、「先生に聞かれるから」と言うのだった。

「母子家庭であることは入学時に提出した家庭調査書でわかっていること。担任に『子どもに聞く必要があるんですか』と尋ねたら、『生と死の教育で必要だ』と言われました」(母親)

 母親によると、男児は担任から父のことを何度も聞かれ、「こんな学校嫌や」と口走った。以後、担任からは「別の学校に行けば」と繰り返し言われるようになったという。

 それから間もなく、男児は母親に「席替えして独りぼっちになった」「僕が休んでいるとき、先生がクラスの子みんなの前で『◯◯君(男児の名前)とはかかわっちゃダメ』って言ったんだって。友達がそう言ってた」と打ち明けた。

 驚いた母親は翌日、学校を訪ね、教室へ向かった。そこで見たのが、冒頭の光景だ。担任に理由を尋ねても、説明が二転三転。校長と会い、「男児とかかわるな」という担任の発言について問いただすと、「聞き間違いの可能性が高い」の一点張りだったという。

「この日の帰りに、同じクラスの子3人と会いました。『うちの子とかかわっちゃダメって先生に言われた?』と尋ねてみたら、3人とも口をそろえて『うん、言われた』って」(同)

 母親は7月下旬、男児の通っていた丸亀市内の保育園の園長(44)と弁護士を伴い、学校側と話し合いをもった。

 園長は取材に対し、「本当に頭にきた」と振り返る。担任が「あの子は嘘から始まる子だ」と言ったといい、「田舎の保育所から入学した子だと、二重三重に下に見ている印象を受けました。子どもを大事にしていない様子がうかがえ、最後は僕が『時間の無駄だ。帰ろう』と言ったほどです」と話す。

 弁護士によると、校長からは(1)保護者が通学時にお金を持たせている(2)学校から保護者に連絡を取りにくい──という2点が問題として示されたという。母親は(1)について「息子が通学電車で寝過ごしたことがあった。お金は不慮の事態への備え」、(2)については「私の勤務先の決まりで、携帯電話をロッカーに入れているからだ」と説明。母親が、病気などで欠席させるときは事前に連絡していたと主張すると、担任が「連絡を受けていない」と反論するなど、話し合いは平行線をたどったという。

 母親によると、その数日後に校長から「転学願」を渡された。母親はその場では突き返したが、夏休みのうちに事態を解決したいと悩んだ。弁護士を通じ、「転学願を出すならこれまでの経緯を書く」との意向を校長に伝えたところ、「自己都合としないと受け付けない」と拒否された。

 2学期も通学させるつもりでいた8月末、校長名で「通告書」が送られてきた。「在学関係は既に破壊されているので、あえて通学させるのであれば、新に、誓約書を差し入れて戴き、当校はそれを検討して返答する」(原文ママ)と書かれていた。9月中旬までに誓約書に署名しない場合は「退学処分をせざるを得ない」とし、提出するまでは登校を認めないという。

 誓約書には「よくないことをしたと分かったときは、きちんと謝ります」との一文があった。母親が悔しそうに言う。

「納得いきません。大人である担任はひどいことをしても、子どもにごめんなさいとは言わないんですか」

■学校側は否定「事実でない」

 学校側は期限が過ぎた今も、退学処分にはせず、しかし登校も認めないという姿勢を続けている。義務教育を受けられないという異常事態を知った丸亀市教委が10月、特例として地元の公立小学校での受け入れを決定。男児は今、こちらに通学している。だが、弁護士によると、学籍を移せていないため、このままだと小学校卒業が認定されない可能性があるという。

 母親によれば、問題となった担任教師はベテランで、入学式では「ノートルダム清心女子大を卒業し、30年間この小学校に勤めています」と自己紹介していたという。いったいなぜ、この男児を「特別扱い」したのか。

「息子ははっきりモノを言う子です。入学直後の5月ごろ、息子の帽子が風で飛ばされたとき、担任が『また買えば』と言ったそうです。息子は『買えば済むという言い方はおかしい』と言い返したらしく、それが嫌われるきっかけになったかもしれません」(母親)

 校長に事実関係や理由を尋ねる質問状を送ったところ、文書で回答があった。

「(母親の主張は)事実ではありません。保護者から他校へ転校するとの申し出があり、その手続き中だったところ、保護者から転校理由として退学処分をされたこととするからと言って退学処分を求めてこられた事実があります。申し出を断ると、転学を翻意して当校に通学させるとの連絡があり、本校としてはこれを受け容れるべく、子どもさんが1日でも早く就学できるよう必要な対応をしてきました」

 学校から一方的に転学願を渡されたという母親の主張とは大きく食い違っている。校長はその後の電話で「ご指摘の点について誠実に調査したい」と話した。

 渡辺理事長は自著でキリストの愛に基づき、「嫌いな相手でも大切にする、否定しない、価値を認めることをやめてはいけないのです」などと書いている。置かれた場所で咲こうにも咲けない幼子がすぐそばにいることを、どう思っているのか。渡辺理事長にも見解を求めたが、期日までに回答はなかった。

(ライター・秋山千佳)

※週刊朝日 2016年2月26日号