ニューヨークでお受験しちゃいました。

 

ミーハーがゆえに・・・

 

街中がクリスマスムード一色に染まる12月。季節外れの暖冬が続くニューヨークは『お受験』シーズン真っただ中でもある。

 

例年9月の第一月曜日となるレイバーデーから幕を開けるはずのお受験シーズンだが、今年は8月半ばから募集が始まる私立もあったとか。来年にはキンダガーテンと呼ばれる幼稚園に進む娘の進路先を考えた時、「まあ、私立も見てみるか。見るのはタダだし」くらいの軽い気持ちで見てみたら、まさかインタビューまで受けることになるとは・・・。

 

マンハッタンでは近年私立幼稚園への『お受験』が過熱する動きがあり、2008年には親達の狂想曲に密着したドキュメンタリー映画「Nursery University」が公開されるほど。さらに、テレビドラマ「ゴシップガール」でマンハッタンの有名私立校に通うティーンエージャーたちの派手なパーティーライフが話題になると、マンハッタンの私立=セレブというイメージが定着した。

 

しかし、庶民だって住むニューヨーク。実際のお受験はどんなものなのか? コネもお金も一切ない私たちがドタバタの末インタビュー(面接)にたどり着いた、超個人的お受験裏事情コラムです!

 

 

 

頼りの綱はファイナンシャルエイド

 

ニューヨーク州の私立といえば、何と言っても学費の高さが有名だ。幼稚園といえども、年間4万ドル(約480万円)ほどかかる学校が多く、年間2万ドルでは安いと言われるほど。そんな学費をポンと払えてしまうようなセレブや富豪も多いが、その一方で一般家庭からでも進学できる仕組みも存在する。

それがファイナンシャルエイドと呼ばれる返済義務のない補助金だ。

 

家庭の収入や経済状況によって、どの程度学費を支払うことができるのかが判断されるため、学校の面接とファイナンシャルエイドの審査をクリアすれば、ごく普通の一般家庭からでも私立校への道が開かれる。

 

もちろん、公立の幼稚園、小学校も選択肢としてあるが、公立校はその年の学校の予算により、まず音楽や美術の時間から削られてしまうデメリットがある場合もあり、ファイナンシャルエイドをゲットしてでも潤沢な予算がある私立を選ぶパターンもある。

 

ならば、そんなに私立は凄いのか? 最初はこんな疑問から、見学だけでも行こうと決めたのです。

 

 

 

ドナルド・トランプの母校を見学

 

夏休み中から『お受験』が開幕しているとはつゆ知らず、10月半ばから私立校のウェブサイトをチェックし始めた私。完全に出足が遅かった! この時すでにオープンハウスと呼ばれる見学会すら、人気校は年内満席のところが多く、学校に直接問い合わせをして最初に見学に行ったのが、ニューヨーク市クイーンズ区にある「キュー・フォレスト・スクール」だ。

 

創立は1918年と古く、来年の大統領選挙で共和党候補を目指す不動産王ドナルド・トランプも通った学校だ(トランプ氏は当時から問題児だったため退学させられたっていう噂も)。

 

扉を開けるとそこは優雅な時が流れる素敵な空間。自習室にはシャンデリアが温かな光をともし、思わずため息が出るような雰囲気は、ザ・私立!

 

案内してくれた担当の方も物腰が柔らかく品があり、行き交う生徒たちもすごく落ち着いている。こんな子供に育ってくれたら、親は楽なんだろうな~。

 

何より驚いたのは、見学の帰り道にすぐ案内してくれた担当の方から「来てくれてありがとう」というメールがあり、その夜にはなんと在籍している日本人ママさんを橋渡ししてくれ、学校選びのことなどを丁寧に教えてくれたのです。先生も保護者も生徒も皆、この学校の一員であることに誇りを持っているよう。

 

親としては通わせたいと思わせる学校。でも・・・。

 

私 「来年の幼稚園、どんな学校がいい?」

娘 「おおきい学校」

私 「大きいって、どんな風に大きいの?」

娘 「小学生のいる学校!」

私 「じゃあ、クラスが一つしかないのと、クラスが沢山あって友達もたくさんいるの、どっちがいい?」

娘 「いっぱいいるほう!」

 

キュー・フォレストは1学年1クラスで幼稚園から中学まで進む少人数規模のため、生徒選びの基準は「いい家族、いい子供に来てもらいたい」ということ。より多くの友達と接したいタイプの娘には、少し窮屈に感じるかも? 

 

 

2つ目は国連インターナショナルスクール

 

そして次に見学したのが、United Nations International School、通称ユニス(UNIS)だ。その名の通り、国連が運営するインターナショナルスクールで校章も国連のもの。

 

数年前にユニスの存在を知ってから、「国連の学校ってなんか凄く楽しそう!」と気になっていたので、ミーハーな気持ちで見学会を予約したのです。

 

予約できた見学会は12月4日の金曜日。マンハッタンキャンパスとクイーンズキャンパスの2つがあり、私は自分が住んでいるクイーンズキャンパスを見学することに。すると、いざ学校に行ってみると、外観には何も国連マークはなく、番地だけ。

 

「本当にここ?」とドギマギしながらセキュリティゲートをくぐると、何気なく置かれたゴミ箱に国連マークが!!! 学校も国連の機関とみなされ、防犯上の理由で外観には何もマークがないそうだ。

 

未開の地に足を踏み入れるようなドキドキ感。オープンハウスの予約を告げると、図書室に案内され、しばらく待つことに。図書館は思ったより大きくなく、こじんまりとしたどこか懐かしい感じがする。

 

一応、服装には気をつけました。ほら、日本のファッション雑誌でも「お受験ファッション」が特集されてたりするでしょ? でも解消されない産後太りの影響で会社勤めだったころのスーツは入らないし・・・。着ていく服がなく、シャツワンピでごまかして行ったのです。

 

心配は無用でした。ジーンズ姿のママさんが3人も! 私立と言うと、見た目からしてセレブっぽい親御さんを想像していたので、少し拍子抜けするぐらいだったけど、本当にこれは学校によりけり。国連インターの意外すぎる普通感が、心地いい。

 

ユニスでは、日本でも採用校が増えている『国際バカロレア(International Baccalaureate)』と呼ばれる教育方針を採用している。オープンハウスではその説明のほか、幼稚園の担任の先生や、第二外国語としてスペイン語を担当する先生がプログラムを丁寧に説明してくれた。

 

その流れで、校長先生が強調するように話していたのは、「肌の色や出身地、見た目ではなく、その子がその子として自信を持てるように」ということ。人種や性別を超えて、自分が自分らしく輝き才能を発揮するには何が必要か。子どものころからそんなことを考える環境が整っているように思えた。

 

幼稚園の担任の先生は、小柄ながらエネルギッシュ。「最初は英語が話せない子もいるし、読み書きにも差がある。だけど、その子に応じたアプローチをしていくと、1年後には、ぐーんって伸びるんですよ。本当にこんな感じで(右手を大きく伸ばして)ぐーんと。私がキンダーの先生をしていて、一番面白いのはそこなんです。皆の伸びて行く姿を見て行くのが楽しい!」。もうこんな先生に見てもらったら、子供は本当にグングン伸びるはず! 一瞬で学校のファンになってしまう、そんな力がありました。

 

タイプの違う2校を見て気がついたのは、いいなと思う学校では、別の学校でマイナスに感じた部分がプラスに感じられるということ。

 

ユニスも1学年1クラスだけど(クイーンズキャンパスのみ)、全員が幼なじみのような環境で密な青春時代を過ごすことができるんじゃないか、そしてそれは一生の財産になるはず、と。

 

もう一つ驚いたのは、在校生の保護者の話。例えば校庭で誰かが喧嘩していたりすると、上級生が「何があったの? ここはUNIS。話し合いで解決しようよ」と喧嘩の仲裁に入ることもあるそうです。

 

全てを“平和的手段”で解決する国連らしいアプローチを身につけることができたら、将来活かせるんじゃないか。そんな思いもありました。

 

その頃には心のなかでは「ダメもとでアプライしてみよう」。話すことが大好きで、良く言えばクラスのリーダータイプ、仕切りたがり屋の性格がたまに傷となる(笑)娘には合うかもしれない。娘のいい面が伸びて行くかも。そんな風に感じ、受かっても受からなくてもトライしてみようと決心したのです。

 

驚いたのは、面接日がオープンハウスの翌週だったこと。見学会は9月から行われており、私が参加したのは最後の回だったのです。

 

「インタビューの日は公言してはいけないことになっているんです。12月12日、その1日だけです」(校長先生)

 

あと1週間しかなーーーーい! 

 

英語に自信がないのに、おずおず手を挙げてみる。

 

「あのー、その日までに出願は完了してないといけないんでしょうか?」

 

「そうです。ファイナンシャルエイドの申請も今年は早まってますから、申し込む場合は早めにして下さいね」

もっと早く準備してればよかったー!! 週末をのぞいて残り5日間。ドタバタの出願準備が始まったのです。

 

 

 

ピンチを乗り切るコツは気配り?!

 

オープンハウスの予約と同じくアプリケーションは全てウェブサイトから。ネット時代を象徴するような仕組みになっており、これってネットが繋がらない人は申し込みすら出来ない訳?!なんて思ったりも。

 

しかし、ここで落とし穴が! 現在娘が在籍している学校のパソコンから、出願のために必要な娘の評価レポートを記入するためのウェブサイトにアクセスが出来ない!

 

急いでユニスの窓口担当に事情を説明し、プリントアウトできる書類を送ってもらうと、なんと18ページもある。

 

これを1日で記入して下さいって、本当に無理があるよね。この時点で出願が終わったわけではないけど、ユニスの事務担当が面接の予約を入れてくれたので、もうやるっきゃない。何が何でも出願を終えなければならなくなったのです。

 

ユニスの面接受けるなんて、最初で最後! そんなミーハー心が勝ったのか、一気にギアチェンジし、出願、そしてファイナンシャルエイドの申請に向けて動きだしました。

 

メールで送られて来た記入書類を家で印刷し、学校へ戻る前に地元でちょっと人気のケーキ屋さんへ。クリスマスらしく赤と緑でラッピングされたクッキーの詰め合わせを購入し、再び今通っている学校に戻りました。

 

「いやね、書類を送ってくれてプリントアウトしたんだけどね、本当見せたくないぐらいなんですよ。だって18ページもあったの!!!」と恐る恐る事務担当者に書類を出す。

 

眉をしかめられてしまったところで、すかさずクッキー投入!

 

「でね、本当に忙しいところ申し訳ないから、これ、ぜひ皆さんで食べて下さい」って。

 

「まあ!ありがとう! こんなことしなくて良かったのに~。でも嬉しいわ」。最初は「忙しくて、あなたのメールを見る時間なんてないわよ」って言っていたのに、ニコニコ笑顔に。こういう時、アメリカ人は素直ね。

 

(パラパラとページをめくりながら)「これはやっぱり担任の先生に記入してもらわないとダメね。もう(娘の)担任は帰っちゃったから、私が1ページ目だけ記入してあげるわ。明日の朝、これを担任に渡して書いてもらってね」

 

そして、翌日担任の先生にお願いし、無事書類完了。先生にも後日、クッキーをプレゼント。教師歴4年の若い女性の先生ですが、「わあ、嬉しい!食べるのが待ちきれないわ」と嬉しそう。日本じゃきっと受け取らないかな?

 

全てが最後の最後での申し込みとなったユニス受験。少しの手土産が、物事をスムーズに運ぶ潤滑油になったのです。

 

 

それと平行して夜な夜な日本滞在中の夫と連絡を取り合い、辞書片手にファイナンシャルエイドの申請も完了。いよいよ、私も親として初、4歳の娘にも初めてとなる『インタビュー』へ挑みます!

 

 

 

右往左往の面接日当日

 

初の私立幼稚園面接日。集合時間は12時というなんとも中途半端な時間となりましたが、朝は余裕を持って自宅を出ることに。

 

しかし、何があるか分からないのがニューヨークの地下鉄システム。目的地まであと数駅だっていうのに、いきなり路線が変更になってる!

 

急いで電車を降りて、一駅戻ることに。戻ったほうが大きい駅だから、きっとタクシーが止まっているだろうと思ったんです。

 

しかし! これが大間違い。駅が大きいことは大きいんだけど、幹線道路に面した場所で、交通量は多いがタクシーがいない!

 

この時点で約束の12時まであと30分を切っている。

 

せっかくクッキーの詰め合わせまで買って書類を整えたのに・・・。せっかく楽しみにしておいたファミリージャズコンサートを諦めたのに・・・。本当は知人宅で開催されるバザーに行って、美味しい食べ物をいっぱい買うはずだったのに・・。あー、神様仏様、どうか1台でもタクシーを!!!!

 

私が焦ったら、娘も焦る。落ち着いて、落ち着いて。きっと大丈夫。タクシーに乗りさえすれば10分で着くから・・・。

 

「ねえ、どうしてタクシーいないの?電車にまた乗るの?」

 

「電車には乗らないよ。タクシー探すね。大丈夫だよ。タクシーが通りそうなところまで歩こうね」

 

すると、誰かが降りたタクシーが空いた! ラッキー!! すぐに飛び乗って、目的地を告げても、「???」。

ユニスのクイーンズキャンパス、穴場なのかけっこう知られていないんですね。携帯電話で地図を見せて、行き先を確認してもらう。しかし、おじいちゃんドライバー、遅いったらありゃしない。ニューヨークでこんなのろのろ運転のタクシー、初めてだよ。

 

「すみません、12時までにここに着かないといけないので、もう少し急げますか?」

 

「この辺り、スピード出しちゃダメだから」

 

いや、後続車にクラクション鳴らされ、ガンガン追い抜かれてますけど・・・。 じりじり迫る時間を気にしつつ、集合5分前に滑り込みセーフ! 18ページ分の追加書類も提出しあとは本番に備えるだけ。

 

娘には、事前にちゃんと説明してありました。国連っていう世界のいろんな問題を解決するところがやってる幼稚園の見学に行ったら、とても良くて、もしかしたら気に入るかもよ。そして、その学校に行くためには新しいお友達と皆で遊んだりする時間が必要なんだって。だから、今度新しい学校に遊びに行こうね、と。

 

どこまで理解していたのかは分かりませんが、娘はいたっていつも通り。学校についてすぐうんちが出るし、初めての場所でもリラックスして過ごせることが分かったのは収穫だ。

 

オープンハウス同様図書館に案内されると、もちろん遅れてくるファミリーもちらほら。私は再びシャツワンピ、娘はお気に入りのハートが沢山着いたカットソーと紺色のスカート、ピンクのスニーカーといつも通りの格好でした。でもやっぱり、面接日でもジーンズママさんがいた!ユニスでは親の面接がないため、比較的ラフな格好が主流でした。 さらには、長い髪の毛の下30センチを真っ赤に染めているママさんも。

 

学校に合わせてスタイルを変えるのではなく、自分たちのスタイルを貫いているファミリーが多かった。マンハッタンキャンパスでは半数以上の保護者が国連に勤務しているそうだが、クイーンズキャンパスではその割合が2割ほどに減少する。より多く一般に門戸が開かれている分、いろいろなタイプの人が集まるのかもしれない。

 

さて、肝心の面接はというと、 10人ほどの子供達だけ別の部屋へ移動し、1時間ほど皆で工作したり絵を描いたり、遊ぶというもの。もちろん保護者が一緒にいないと図書館から出て行かない子どももいて、その場合は保護者が別の部屋まで付き添いを許されてました。その間、親は校舎を再び見学し、図書館に戻ってコーヒーを飲みながらリラックスして過ごすことが出来ました。

 

ちなみに、保護者が1人だけだったのはうちだけです。

 

ハサミ、ノリを使って作った帽子。細かく丸める作業とか手先の起用さを見ていたのかも

そして1時間後。子供たちは工作した帽子を手に戻ってきました。どうだった?と聴くと、「楽しかった!」って。本当、その言葉だけでトライして良かった。最初は自分の名前の発音が間違えられたようで、「違う、マコって言ったの」とまで。きちんと自分が言いたいことも言えたようです。

 

1時間も遊ぶと何人かの名前は覚えているようで、数人でさっそく待合室と化した図書館で遊び出しました。本を取ってきては、何が面白いのか分かんないけどケラケラ笑ったり。

 

最後、校長先生が一人一人に、「楽しかった? 今日は来てくれてありがとうね」と気さくに声をかけていました。今思えば、子ども達は名札を付けていたので、名前と顔を確認していいたのかな? ついでに保護者の雰囲気も・・・。

 

ちょうど校舎を出る時、話しかけてくれた保護者の方はバングラデシュ出身でした。その子とも名残惜しそうにハグし、学校に別れを告げるのです(大げさ、笑)。

 

「ここのプレイグラウンドで遊んで行きたーい」

 

分かるよ、遊びたいよね。でも、今日は遊べないのよ。もしかしたらまた遊びに来れるかもよ。

 

ミーハーな気持ちから体験した初のお受験は、意外と普通に、そして地味な面もありながら無事に終了しました。ここまでかかった費用は、ファイナンシャルエイド申請料の47ドルとクッキー詰め合わせ2つで20ドル。交通費20ドル(9ドルだったタクシーが思わぬ出費・・・)。校長先生といろいろ申請を助けてくれた事務の担当者の方に送ったサンキューレター代10ドルの合わせて97ドルでした。

 

お受験=セレブのものではなく、子どもにいろいろな可能性を残すと言う意味で、視野を広く持ってもいいんだとわかった今回のお受験体験。合格するかしないかに関わらず、子どもの頃から世界を意識した学校を体験できたことは、日々の子育てにも刺激になりそう。

 

Decision Letterと呼ばれる合否連絡が来るのは来年2月。サクラは咲くか?!

 

 

 

宮下幸恵 NY在住フリーライター

NY在住元スポーツ紙記者。2006年からアメリカを拠点にフリーとして活動。宮里藍らが活躍する米女子ゴルフツアーを中心に取材し、新聞、雑誌など幅広く執筆。2011年第一子をNYで出産したが、妊娠中軽いつわりで体重2キロ減も、「毎日ミルクシェーキを飲め!」と言う病院の栄養指導に愕然とする。日米の違いに惑いながらも、バイリンガル(欲を言えばトリリンガル?!)を目指し奮闘中!娘のイヤイヤ期がきっかけでママ向けコーチングの手法を学び始め、2014年にNPO法人マザーズコーチ・ジャパンの認定コーチに。

 

 

2015.12.18  ヤフーニュース ライフ  から引用