名古屋の進学塾「反社会的勢力を遮断」 元代表一族排除  名進研小学校

朝日新聞 27.8.27

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名進研グループ元代表をめぐる経緯

 

 

 東海地方で私立小学校や進学塾を運営する「名進研グループ」(名古屋市)が、暴力団など反社会的勢力との関わりを絶つ方針を決めた。暴力団の資金源とされる風俗業者側に計6億円を融資したグループ元代表の男性(65)と親族の影響を、26日までに完全に排除。職員には反社会的勢力との関係遮断を宣誓させ、入校・入塾希望者にも署名を求める。

 

 

 暴力団排除条例が全国で施行された2011年以降、金融や証券、製造など各業界で暴排への取り組みが進んだが、教育事業者が反社会的勢力の排除を誓うのは異例だ。

 元代表をめぐっては、04~05年、愛知県警指定暴力団山口組弘道会の資金源と認定した風俗店グループ経営者の男性受刑者(58)=警官脅迫事件で実刑判決=らに計6億円を融資していたことが朝日新聞の報道で昨年3月、明らかになった。

 

 風俗店グループは、愛知県や愛媛県にファッションヘルスなど数十店を展開。男性受刑者は「風俗王」と呼ばれ、弘道会幹部とともに逮捕されたこともある。捜査関係者らによると、融資金は風俗ビル建設や賭けゴルフの借金返済に充てられたという。

 

 元代表によると、男性受刑者とは1996~97年ごろ知り合い、99年~2008年までの一時期、双方の会社の役員を互いに務めていたという。

 

 融資問題が発覚した後の昨年3月、元代表は塾を運営する「教育企画」社長を辞任。名進研小学校(同市守山区)を運営するグループ代表も退いた。しかし、元代表の長女は同小の理事長、次女は理事をそれぞれ継続。元代表は今年に入り、再び校舎に頻繁に出入りするようになっていた。

 

 そのため姉妹を除く他の理事4人は、学校運営に影響を与えているとして退陣を要求。長女は7月30日の理事会で理事長を辞職し、その後、次女は解雇され、長女の理事職も解かれた。

 

 これまでに、理事の一人で医療法人「としわ会」理事長の清水利康氏が、教育企画の全株式を保有していた別の塾グループからこの株式を購入。清水氏が新理事長に就任した。

 

 新体制では「反社会的勢力に対する基本方針」をまとめた。07年に政府が示した、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に基づき、取引や資金提供を遮断し、警察や弁護士らと連携を緊密にするとしている。

 また、今月26日までに、塾や学校の全職員を対象に、暴力団やその周辺者らとの関係を絶つとした誓約書への署名を求めた。今後、入塾希望者や新入生の保護者にも誓約を求めていくという。

 ただ、名進研小への入学に関しては、教育を受ける権利を認める憲法に抵触する可能性があるため制限しない。保護者が反社会的勢力の関係者と確認された場合は、保護者の施設内への立ち入りを禁じるという。

     

 

 〈名進研グループ〉 愛知県や岐阜県進学塾「名進研」40校を運営するほか、2012年春に東海で初めて塾立の名進研小学校(名古屋市守山区、児童数420人)を開校した。名進研小は、グループが設立した学校法人が運営し、学習塾のノウハウを生かした教育をアピール。教員免許を持つ塾講師などが教壇に立つほか、塾のテキストを活用した授業が公立より6年間で約1450コマ多いのが特色という。

 

 

■「私物化」疑われる行為も

 

 「人のうわさも七十五日。すぐに落ち着くよ」「小学校は、うちの一家の持ち物。自分がいないとだめなんだ」……。元代表の男性(65)は名進研グループでの復権を目指し、そう周囲に漏らしていたという。問題が明るみに出た後も「学園長」の肩書を名乗り、再び小学校校舎に出入りしていた。

 

 元代表の長女が使っていた理事長室。児童らも近くを通る入り口のパネルには「理事長室」のほかに「学園長室」の文字が残っていた。室内には執務机が二つあり、役職を退いている元代表は、この部屋に出勤し、学校運営に口出ししていた。5月31日には、周囲の反対を押し切って創業者として入学希望者の学校説明会に出席。約30分にわたって壇上であいさつしたという。

 

 元代表ら排除のきっかけは、こうした「実質的な支配」(学校関係者)を他の理事が疑問視し始めたことだった。東京で暮らす長女も、理事の次女もほとんど姿を見せないが、宿泊代や交通費など私用とみられる経費を小学校に請求するなど、「私物化」が疑われる行為もあったという。

 

 他の理事らは、私学助成金が交付されている以上、看過できないと判断。元代表親子に「絶縁」を言い渡し、姉妹に対しては、元代表が学校運営へ不当に関与するのを容認したという理由で解雇し、グループ施設内への立ち入りも禁じた。

 

 新理事長の清水氏は「反社会的勢力との決別を示すため、体制を改める必要があった」と説明する。自身の長女や長男が名進研小に通っていることもあり、買収を決意したという。

「『弘道会の幹部養成学校』などと事実と異なる中傷もあり、悪影響が続いた。通っているすべての子供たちに汚点を残したままでは、申し訳がつかなかった」と話した。